食品の味を決めるのは、料理人の腕だけではない。「どう凍らせるか」で味は大きく変わる。
この事実を武器に、倒産寸前から食の未来を変えようとしている企業がある。冷凍機メーカー、テクニカンだ。
創業は1988年。抜群の技術力がありながら、最初の10年間で売れた冷凍機は30台以下。倉庫には在庫の山、借金も膨らみ、兄弟からはこう言われたという。
「もう会社、潰れてるのと一緒だよね」
ここからの逆転劇が、凍眠革命の始まりだった。
社長が営業マン100人分になった日
当時のテクニカンは、良い技術を持っていても営業が弱かった。そこで社長は腹をくくる。
「自分で売りに行くしかない」
自ら年間300社以上を訪問。全国の食品メーカー、飲食店、加工業者に足を運び、液体冷凍技術の話をし続けた。
泥臭い営業の積み重ねが、のちに「凍眠」を世に知らしめる火種となる。
誰も真似できない液体凍結──細胞を壊さず、味を守る
テクニカンの武器は、一撃必殺の液体凍結技術である。
通常の冷凍は空気でゆっくり冷やすため、氷の結晶が大きくなり、食品の細胞を壊してしまう。解凍すると、旨味や水分がドリップとして流れ出てしまう。
これに対してテクニカンの凍眠は、エチルアルコールを用いた液体凍結方式を採用。液体は空気の20〜24倍の熱伝導率を持つため、食品を一気に凍らせることができる。
- 細胞が壊れない
- 解凍してもドリップが少ない
- できたてに近い味・食感を再現できる
「冷凍すると味が落ちる」という常識をひっくり返す技術が、ここにある。
酒蔵も驚いた、凍眠生酒という革命
凍眠の実力がよく分かる事例が、酒蔵とのコラボで生まれた凍眠生酒だ。
日本酒は通常、火入れ処理をして出荷する。しかし火入れにより、フレッシュさや香りはどうしても失われる。
凍眠を使えば、火入れせずに生のまま凍結保存が可能になる。結果として、
- フレッシュな香り
- 搾りたてのような味わい
- 酸化の少ないクリアな口当たり
をキープしたまま届けることができる。冷凍は「ただ保存するため」ではなく、「最高の状態を固定化する技術」へと変わりつつある。
中小企業診断士としての視点:テクニカンは食品インフラ企業になれる
ここからは、中小企業診断士としての視点でテクニカンの可能性と提案を整理していく。
1. 伝える:液体冷凍と空気冷凍の差を「数値と比較」で見せる
液体凍結のすごさは、感覚だけでは伝わりにくい。だからこそ、SNSやウェブでは「見える化」が重要になる。
- 冷凍時間の比較(空気冷凍との倍率)
- ドリップ量の比較
- 細胞写真のビフォー・アフター
- 官能評価(食味テスト)の結果
こうしたデータを発信することで、価格ではなく技術価値で選ばれるポジションを築きやすくなる。
2. 広げる(柱):セントラルキッチン市場への本格参入
大手外食・中食企業は、セントラルキッチンを軸に全国展開を進めている。ここに凍眠を組み込むことで、
- 地域ごとの品質差の縮小
- 作り置きでも味を落とさない仕組み
- 人手不足を補う生産体制
などの価値を提供できる。冷凍機販売だけでなく、
- 冷凍機のリース・サブスク
- 冷凍レシピや運用マニュアルの提供
- 導入コンサルティング
をセットにすることで、長期的な収益の柱になる。
3. 広げる(技術):凍結だけでなく「前後のプロセス」まで一気通貫に
食品企業のニーズは、単なる冷凍機ではなく「冷凍を含む一連の工程の最適化」にある。
- 冷凍テストキッチンサービスの提供
- 凍眠に最適化された解凍方法の提案
- 真空包装・トレーなど、パッケージとの組み合わせ提案
凍結前後を含めたトータルソリューションとして売ることで、価格競争から抜け出すことができる。
4. 海外展開:規制の壁は「商社+実証+補助金」で突破する
海外の食品・設備関連は規制が多く、簡単には進出できない。しかし、
- 商社との独占代理店契約
- 現地食品企業との共同実証プロジェクト
- 輸出支援・海外展開系の補助金活用
といった組み合わせにより、リスクを抑えながら展開することは十分に可能だ。特にフードロスや水資源の課題が大きい地域では、凍眠の価値は高い。
5. 社会課題との接続:フードロス削減の旗手に
凍眠は、社会課題と非常に相性が良い技術でもある。
- 規格外品や余剰食材の冷凍活用
- 産地で冷凍加工し、都市部に高品質供給
- 非常食や災害備蓄の高品質化
大学・研究機関と連携し、フードロス削減の実証プロジェクトを進めれば、企業価値と社会的評価の両方を高められる。
まとめ:冷凍を変えれば、食の未来も変わる
テクニカンの物語は、「在庫の山」から「世界レベルの冷凍技術」へと変わった逆転劇である。
冷凍は、ただの保存ではない。食の価値を未来に届ける技術である。
凍眠という技術を通じて、テクニカンは食の世界を静かに、しかし確実に変えつつある。


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