台車メーカー花岡車輛──「運ぶ」を再発明した老舗の挑戦

勝手に企業診断

1933年創業、台車メーカーの花岡車輛。リーマンショックや東日本大震災の影響で景気が悪化し、同社も例外なく厳しい状況に追い込まれました。

値引き要求、ライバルとの価格競争、疲弊する現場――。このままでは「安売り競争に飲み込まれて終わる」と危機感を抱いた社長が選んだ道は、あえて真逆の戦略でした。

「価格競争から抜け出し、高付加価値で勝負する」

そしてもう一つ、経営の軸となる考え方があります。

人と人をつなぐための機材をつくるメーカーになりたい

台車を「ただの運搬具」から、「人やモノの動きをデザインするプロダクト」へ。花岡車輛の挑戦が始まります。

現場の「不」を拾い上げる商品企画力

花岡車輛の最大の強みは、お客様の困りごとを集め、それを商品企画に落とし込む仕組みがあることです。

  • 荷崩れしやすい
  • 段差でつまずく
  • 軽いけれど不安定で怖い
  • 車輪の付け替えが大変

こうした「ちょっとした不満」を徹底的にヒアリングし、試作・改善を繰り返すことで新製品を生み出してきました。その結果、新規取引先は1000社以上に拡大しました。

デザインで選ばれる台車ブランド「ダンディシリーズ」

代表ブランドである「ダンディシリーズ」は、台車のイメージを大きく変えた存在です。

  • 軽くて持ち運びしやすい
  • 荷物を載せても安定している
  • 段差もスムーズに乗り越えられる
  • 車輪の付け替えが簡単
  • キャンプやアウトドアでも映えるデザイン
  • インテリアに馴染むラインナップも展開

機能性だけでなくデザイン性も評価され、グッドデザイン賞も受賞。台車が「かっこいい」「使っていて気分が上がる」と言われる領域にまで進化しています。

社内理念を3年かけて再構築

こうした商品力の裏側には、組織改革があります。花岡車輛は、社内理念を現在の時代に合った言葉に練り直し、3年かけてMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を言語化しました。

  • 部署ごとに理念を具体的な行動に落とし込む
  • 社内SNSを活用して情報共有とコミュニケーションを促進

「何のためにこの仕事をしているのか」が社内で共有されることで、現場の動きが変わっていきます。技術だけでなく、組織としての足腰も鍛えてきた企業と言えます。

IoTで台車に“位置情報”という付加価値をのせる

花岡車輛は、単にモノをつくるだけではなく、IT・IoTの活用にも踏み込んでいます。

台車にIoT機器を載せ、どこにあるかを把握できる位置管理システムを構築。医療現場などからも声がかかるレベルのソリューションへ発展しています。

「台車はどこに行った?」「あの機材が見つからない」といった現場のロスを減らし、物流や医療、工場などの効率化にも貢献できるようになりました。

診断士として見る花岡車輛の伸びしろ

ここからは、中小企業診断士の視点で、花岡車輛がさらに成長するポイントを整理してみます。

① 広げる:アフターサービスを“事業化”する

台車は使って終わりではなく、使い続ける中で価値が問われるプロダクトです。

  • 車輪やキャスターの摩耗
  • フレームの歪み
  • 安全性の確認

これらを「アフターサービス」としてだけではなく、広げて「サービス事業」として位置づけると、新たな収益源になります。

  • 定期メンテナンス契約(サブスク)
  • 故障予知や取り替え時期の診断レポート
  • 工場・倉庫・建設現場など向け「動線改善・運搬コンサル」

台車そのものだけでなく、「運ぶプロセス全体」を価値として売るイメージです。

② 伝える:ファンコミュニティーとしてのブランド育成

台車は本来“目立たない道具”ですが、使い方やストーリーを発信することでファンがつくプロダクトになります。

  • SNSで、現場の声や開発ストーリーを発信
  • 引っ越し・模様替えを楽にするノウハウ
  • 他社製品との比較による軽量性・強度のエビデンス発信
  • 「不」の募集と、ユーザー参加型の商品共同開発

「ダンディシリーズを使ってくれている現場」の姿を発信することで、共感とファンが生まれます。

③ IT化:IoTデータを可視化し、DXレポートとして提供

台車のIoTデータは、そのまま放っておくのではなく「見える化」してこそ価値があります。

  • 稼働率(どれだけ使われているか)
  • 運行距離
  • 荷重や衝撃履歴
  • 故障傾向

これらをダッシュボードで示し、「運搬DXレポート」として提供すれば、顧客側の経営改善につながります。

さらに、CRMなどの顧客管理の考えを取り入れ、リピート率の把握を行い、買い替え提案などの既存顧客への販促も有用かと思います。

④ 絞る:業界別ブランドで専門性を打ち出す

「誰にでも売れる台車」ではなく、「この業界と言えば花岡車輛」というポジションを取るのも有効です。わかりやすく明確にブランド自体を分けるという考え方ですね。

  • 空港向け:荷物カートやバックヤード用台車
  • 介護向け:シニアでも扱いやすい軽量・静音モデル
  • 物流向け:パレット連結や倉庫内搬送に特化したモデル
  • インテリア向け:ショップやオフィスで“見せる”収納台車

特に介護領域は、需要も社会的意義も大きい分野です。リハビリ用、移動補助用など、台車の概念を広げた商品も考えられます。

⑤ 海外へ:国別ニーズに合わせたラインナップ

台車の需要は海外でも拡大していますが、国ごとに求められるものは違います。

  • 東南アジア:物流や建設現場向けの頑丈モデル
  • 中東:ホテルや空港など、意匠性の高いモデル
  • 欧州:インテリア性やデザイン性を重視したモデル

単に「輸出する」のではなく、国ごとの用途・法規制・気候条件に合わせて最適化したブランド展開がポイントになります。

まとめ:「運ぶ」を極める老舗のこれから

花岡車輛は、価格競争から一歩抜け出し、

  • 高付加価値の商品開発
  • デザイン性の高いブランド展開
  • IoTによる新たな価値創造
  • 理念の再構築と組織改革

を通じて、「台車」というニッチな領域に新しい可能性を見出してきました。

単なる運搬具ではなく、人とモノの動きを設計するプラットフォームへ。 花岡車輛の歩みは、「絞る」「広げる」「伝える」「IT化する」という、中小製造業が生き残るためのヒントが詰まった事例だと感じます。

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