「3代目が継いだら、この会社は終わる」
1990年代後半、富山・高岡の銅着色メーカー モメンタムファクトリー Orii には、そんな言葉が現実味をもって漂っていました。就任前から売上は半分以下に落ち込み、伝統工芸「高岡銅器」は、若い世代の生活から遠ざかり、“守るべき文化”である一方で、“売れない技術”にもなりつつあった。
それでも3代目社長は撤退ではなく、翻訳を選びます。伝統を“そのまま守る”のではなく、現代の暮らしと市場が理解できる形へと変換する。ここから、Oriiの“3代目の再生物語”が動き出しました。
「終わらせてはいけない」から始まった挑戦
社長の原点は明快です。
- 高岡銅器という伝統を、ここで終わらせてはいけない
- 若い人が「使ってみたい」と思う銅器を作りたい
そこで目を向けたのが、銅の圧延板(薄板)への着色。当時としては前例が少なく、試行錯誤の連続だったはずです。
そして偶然生まれたのが「斑紋孔雀色(はんもんくじゃくいろ)」。この偶然が起点となり、Oriiは着色表現を一気に拡張していきます。
「オリイブルー」が世界観を変えた
Oriiの着色は、単なる“色付け”ではありません。
- 気化するガスに反応させることで生まれる独特の発色
- ムラの大きさ、濃淡、反応の微差による表情の違い
- 結果として50〜60種類以上のバリエーション
中でも象徴的なのが「オリイブルー」。深い青の色味がインテリア領域で評価され、グッドデザイン賞にもつながっていきます。
ここで重要なのは、技術がすごいこと以上に、技術を“売れる価値”へ変換したこと。多くの伝統工芸が苦しむのは、まさにこの変換ができないからです。
異業種コラボが「銅着色=仏具」を壊した
Oriiは着色技術を“作品”として閉じませんでした。むしろ積極的に市場へ投げ込みます。
- 時計
- ガス管ケース
- アパレル(デニムなど)
- インテリア用途
伝統を守るだけなら、ここまでの動きは不要です。しかし社長は、伝統を継ぐために、売れる形へ翻訳する必要があると腹を括っている。ここが強い。
職人世界のままでは終わらない。コスト構造まで変えた「経営的な職人技」
さらに面白いのは、Oriiが“感性ビジネス”に見えて、実はかなり経営的だという点です。
職人技は一般に高コスト化しがちですが、Oriiは発想を逆転させます。
- 大きな板で一括着色
- あとから分割して加工
これにより歩留まり改善とコスト削減を同時に実現。結果、売上は2代目時代の8倍、年商2億へ。これは「職人が頑張った」ではなく、固定費型ビジネスを理解し、回収構造を作ったから伸びた、と見るべきです。
中小企業診断士としての評価:この会社の本質は「伝統」ではなく「翻訳力」
診断士の視点で見ると、Oriiの強みは単純な“技術力”ではありません。もっと再現性のある構造にあります。
1)伝統技術を「売れる価値」に翻訳できた
伝統産業の多くは「良いものを作れば売れる」という幻想に縛られます。Oriiは違う。
- 用途を定義する
- 顧客を定義する
- 価格が成立する文脈を作る
ここまでやって、初めて“売上”になります。言い換えると、Oriiは技術を商品にし、商品を事業にした会社です。
2)職人依存・固定費型ビジネスの「回収」を理解している
銅着色は典型的な職人依存で、固定費が先に立つ構造です。つまり、繁忙でも利益が出ない会社が多い。
ここで必須なのが、利益率のばらつきを可視化し、利益が出る領域に寄せること。
- 商品別の貢献利益
- 顧客別の貢献利益(BTOBは特に重要)
- チャネル別の貢献利益(BTOB/BTOC/卸/直販)
Oriiが次にやるべきは、売上を伸ばすこと以上に、利益が残る成長の設計です。
3)最大の経営課題は「技術継承」と「利益集中」
伸びる会社ほど、次の壁はここです。
- 職人の高齢化
- 技術継承が属人的
- 売上が伸びても、利益率が薄い案件が混ざる
- 主力が分散しすぎて管理不能になる
対策は精神論ではなく、分解です。
- 工程分解:誰でもできる工程/職人でないとできない工程を切る
- マニュアル化:継承しやすい工程から着手(完璧主義は不要)
- 外部パートナー:地元業者連携で生産力を底上げ
- 利益集中:利益が出る用途・顧客に寄せる
短期:BTOB×ブランド発信×データで「価格競争」を回避する
短期は、狙うべき顧客を絞るフェーズです。ここを外すと、伝統工芸はすぐに価格競争に引きずり込まれます。
- 社長の再生ストーリーを“事業ストーリー”として発信
- 脱炭素(再生材活用)をエビデンス込みで言語化
- 用途別に価値を定義(インテリア、建材、ファッション)
- 設計から参画できる企業に絞る(ここで利益率が変わる)
- 商品別・顧客別の利益率をデータで把握し始める
特にBTOBは「受注したら勝ち」ではありません。受注しても利益が薄い案件が混ざった瞬間、職人型は詰みます。だからこそ、受注前に“利益が出る条件”を作る設計が重要です。
中期:BTOC×ワークショップ×採用で「ファン」と「次世代職人」を作る
中期は“共感の拡張”。売上を伸ばすというより、ブランドの支持層を厚くするフェーズです。
- ギフト用途(節目・記念)
- 室内用途(インテリア・照明・家具)
- ファッション用途(デニム・革小物など)
そして、Oriiにとってワークショップは販促以上の意味があります。
- ファン化(ストーリーと体験で買う理由ができる)
- 採用導線(伝統技術に興味を持つ若手が増える)
- 技術継承の入り口(“学びたい人”を育成候補にできる)
職人不足の時代に、ワークショップを“教育と採用の装置”として使える会社は強いです。
長期:脱炭素×LTV×海外は「売る」より「理解される」を先に作る
長期は“構造で勝つ”フェーズです。特に海外は焦るほど失敗します。
- 自治体連携(補助金も含め、脱炭素の文脈で事業化)
- 環境配慮型商品を「Oriiブランド」として育てる
- インバウンドを入り口に海外ファンを作り、リピート購入へ
- 海外は商社・展示会でニーズ確認(直販は後回し)
- 法人向けサブスク(色味修繕・定期メンテ・限定案内)でLTV化
海外は“販路拡大”ではなく、まずは価値が理解される市場の探索です。ここを誤ると、物流・返品・通関・CSコストで利益が溶けます。
まとめ:伝統は「守った会社」ではなく「翻訳できた会社」だけが勝つ
モメンタムファクトリー Orii は、伝統を守った会社ではありません。職人を美化した会社でもありません。
伝統を現代語に翻訳し、商品にし、事業にした会社です。
だからこそ、売上だけでなく、次世代も見えてくる。伝統産業が生き残る現実的な成功モデルとして、学ぶ点が多い企業です。

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