医師が足りない時代に、命をつなぐ技術を
「安心して出産できる環境が、当たり前ではなくなりつつある」
そんな危機感から生まれたのが、医療機器メーカー メロディインターナショナルです。同社が開発したのは iCTG。妊婦がお腹に装着し、胎児の心拍数と子宮収縮の状態を記録、そのデータを離れた医師と共有できる遠隔医療機器です。
一見すると「便利な医療IoT」に見えるかもしれませんが、この製品の背景には、いま日本と世界が直面する出産医療の構造変化があります。
社会課題から始まった起業
産婦人科医は減少し、分娩を扱う施設も減る一方で、高齢出産は増えています。つまり、
- 医師は減っている
- 出産リスクは上がっている
- それでも出産は待ってくれない
この矛盾をテクノロジーで埋めるべく、メロディインターナショナルは立ち上がりました。
タイでの実証実験:突きつけられた「200の問題」
創業後、最初に選んだ実証の場はタイ。ところが、現場から突きつけられた課題は200項目以上にのぼりました。
- 装着のしやすさ
- 通信の安定性
- 医師側のUI
- 妊婦の不安をどう減らすか
- 医療現場の運用フローにどう組み込むか
ポイントは「使えるかどうか」ではなく、“使い続けられるか”。社長は逃げずに、1年をかけて一つ一つを潰し込み、現場仕様へ近づけていきます。
次に立ちはだかった「資金」と「承認」
技術が形になってくると、次は現実が襲いかかります。
- 開発資金(補助金・支援の獲得)
- 医療機器としての承認・認定(制度の壁)
特に承認プロセスは、国側での窓口の複雑さもあり「たらい回し」になりやすい領域です。外部の専門家も活用しながら、ようやく登録まで辿り着き、現在は売上がじわじわ伸び、赤字幅が縮小しています。
メロディインターナショナルの強み
同社の強みは、単なる技術力ではありません。要素の「組み合わせ」が強い。
- 社会課題のど真ん中(高齢出産×産科医減少)を解くプロダクト
- 世界16カ国・450台の導入実績(グローバルでの再現性)
- WHO推奨という信用力(意思決定を動かす材料)
- 据え置きCTG(約190万円)より安価という価格優位
- 多言語対応で海外展開しやすい設計
- 社長の理念×粘り強さ×推進力
「理念」「実績」「価格」「信用」が揃っている点は、医療機器スタートアップとして大きな差別化です。
中小企業診断士としての評価:いまは“成長フェーズ直前”
診断士の視点で見ると、同社は研究開発フェーズを抜け、成長フェーズへ入る直前にいます。
売上が伸びなかった(伸びにくかった)要因は、能力不足ではなく構造にあります。
- 生産・販売がスケールしにくい体制
- 売り切り中心でLTV(継続収益)が弱い
- 導入実績はあるが、医療機関が“使い切れない”状態
- 営業・生産を内製で抱え、固定費が重くなりやすい
逆に言えば、ここを直せば伸びます。次に必要なのは「製品の強化」ではなく、事業の設計です。
診断士としての提言①(短期):ファブレス化でスケール耐性をつくる
短期で最優先は、事業構造(体制)の再設計です。狙いはスケール耐性の獲得。
- 生産は医療機器メーカー等の外部パートナーへ(ファブレス型)
- 自社は企画・設計・品質基準・臨床価値の翻訳に集中
- 離島・海外は販売パートナー中心、本島は直販で密度を上げる
これにより、固定費を抑えつつ、需要増にも耐えられる体制になります。社長の時間も「現場対応」から「価値設計」へ戻せます。
診断士としての提言②(中期):価値の“翻訳者”になり、信頼とLTVを上げる
医療機器は、機能が良いだけでは売れません。医療機関の意思決定は、信頼・運用・継続性で決まります。
ここで同社が担うべき役割は「語り部(翻訳者)」です。
- 創業ストーリー(タイ実証での200課題、資金・承認の壁)
- 世界16カ国・450台という実績
- WHO推奨という信用
- 高齢出産という社会課題との接続
これらをSNS・講演・医療/自治体向けセミナーで“わかる言葉”に変換して届ける。
さらに一段上げる打ち手:妊婦コミュニティの設計
同社が医療機関との交渉力を上げるには、「現場の声」を集められる立場を作るのが効きます。
- 高齢出産予定者・経験者のコミュニティ形成
- 安心安全な出産の勉強会・交流会
- 導入病院の事例共有(同じ立場の妊婦の声が刺さる)
この取り組みは、売るための施策であると同時に、製品改良・臨床価値の強化にもつながり、結果としてLTVを押し上げます。
診断士としての提言③(長期):サブスク+データサービス化で“収益の安定”をつくる
長期で狙うべきは、売り切り型からの脱却です。方向性は明快で、
- 機器販売(導入)
- アフターサービス(点検・使い方・安全確認)
- データサービス(状態説明レポート、早期アラート等)
を束ねてサブスク化すること。医療機関側にとっても、導入費一括より「運用費」として予算化しやすくなります。
さらに将来は、遠隔の見守り技術を高齢者医療・介護・自治体連携へ応用し、新商品企画へつなげる。ここまで来ると、同社は「医療機器メーカー」から遠隔医療プラットフォーム企業へ進化できます。
KPI設計(要点):売上より先に“構造”を見る
成長フェーズ直前の企業が追うべきKPIは、売上の総額だけではありません。
- 売上:地域別販売点数(国内/海外)、導入医療機関数、チャネル別構成比
- スケール:販売パートナー数(国内/海外)、生産パートナー数
- 利益:直販/間販の利益率、サブスク利益率、アフターサービス利益率
- LTV:導入施設継続率、アフターサービス契約数、データサービス利用率
- 認知:イベント数、SNSフォロワー数、連携医療機関数
売上が伸びても利益が残らない構造は、医療機器でよく起こります。だからこそ、「継続率」「契約率」「利益率」を同時に追う設計が必要です。
おわりに:技術を“事業”に翻訳できた会社が勝つ
メロディインターナショナルは、良い技術を作った会社では終わりません。社会課題のど真ん中に立ち、実績と信用を積み上げ、いまようやく成長フェーズの入り口にいます。
次に問われるのは、技術そのものより、どう稼ぎ、どう広げ、どう支え続けるかという事業設計です。
「導入される機器」から「使い続けられる仕組み」へ。ここを越えた瞬間、世界の出産の常識を変える企業になり得ます。

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