美容業界で60店舗を展開するオオクシ。一見すると順調な拡大の裏側に、壮絶な組織崩壊と10年かけた再生のドラマがありました。この記事では、数字公開の副作用、フィロソフィーによる再生、そしてサービス業が学べる本質をまとめます。
数字公開の落とし穴
経営者は「売上を全員に共有すれば、自律して動くはず」と考え、数字をオープンにしました。しかし現実は逆効果。仕事ができる人ができない人を攻撃し、現場の空気は最悪に。ついには一部社員から「給料を上げないなら辞めます」と言われ、組織は分断。結果、半数以上が離職する事態に陥りました。
反転の一手は「考え方」の共有
社長は原因を「数字公開そのもの」ではなく、「価値観の共有不足」と捉え直しました。売上や利益という結果だけを見せても、社員は自分の数字しか見ない。だからこそ、根本の考え方を共有する必要がある。こうして成功者の格言をまとめた小冊子「オオクシ・フィロソフィー」を作成し、朝礼や会議、面談などあらゆる場で伝え続けました。
10年かけて文化になる
導入当初は冷ややかな反応が大半でしたが、社長は語り続けました。「考え方が変われば行動が変わる。行動が変われば結果が変わる」。その積み重ねが少しずつ共感者を増やし、やがて文化に。結果として、同じ理念に共感する人材が集まり、離職は減少。お客様へのサービスに集中できる組織へと変わり、1店舗から60店舗まで成長しました。
オオクシの強みはサービスと仕組みの両輪
- 安くて、早くて、質が良いサービスを標準化
- 気楽に来店できる利便性と接客の一貫性
- 接客マニュアルだけでなく、マインドも言語化して教育
- お客様アンケートを全員で検討し、現場改善に反映
- 成長記録ノートで自己成長を可視化
- 出産や介護で離れた社員の復帰を支援するトレーニングセンター
サービス品質を支える「標準化」と、人を育てる「仕組み」が車の両輪として機能しています。
中小企業診断士としての視点
数字より先に価値観を共有する
数字公開は手段にすぎません。先に「何を大切にする会社か」を共有し、意思決定の基準を合わせることが不可欠です。KPIよりフィロソフィーが先にあるべきです。
理念は壁に貼るものではなく、日常で使うもの
小冊子化して終わりではなく、会話・事例・評価に結び付けて共通言語化すること。日常で使われた言葉だけが文化になります。
短期ではなく文化を作る長期戦略
浸透に10年。施策の流行を追うより、文化づくりを積み上げるほうが長期の収益性と離職低下に効きます。
成長に向けた提案
広げる(美容+アルファ)
- まつげ、ネイル、エステなどの複合サービス
- カフェ併設で滞在価値を高める
- 美容×リラクゼーションの新メニュー開発
絞る(ターゲット特化)
- 高齢者向け訪問美容サービス
- 優良顧客限定イベントの定例開催
- 顧客カルテの高度活用による体験パーソナライズ(ここはIT化の余地)
コラボレーション
- 地域カフェや商業施設との相互送客
川下への展開
- 自社ブランドのヘアケア商品(シャンプー、トリートメント)
- 美容スクールやアカデミーの体系化と外販(自社の社員だけでなく、美容全体に広げる)
不の解消(業界への価値提供)
- オペレーション効率化の仕組み導入支援
- 教育プログラムの外販とライセンス化
- フィロソフィー浸透の運用設計コンサルティング(これは面白いしニーズあるのでは)
まとめ
数字の共有は、価値観の共有があって初めて機能します。オオクシは、理念を言葉で終わらせず、日々の会話と仕組みに落とし込み、10年かけて文化にしました。結果としてサービスの質は安定し、人は育ち、事業は拡大。理念は飾りではなく、行動で示し続ける覚悟のこと。変化の時代に強い組織は、ここから生まれると感じます。


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