「スーツに見える作業着」。このフレーズを聞いてピンとくる人もいるだろう。それを生み出したのが、オアシスライフスタイルグループだ。
一見すると、水道の給水管事業を中心としたインフラ企業。ところがその実態は、飲食・アパレルを含む三本柱の多角経営を行う異色の会社である。まさに、“働く”という概念をまるごと楽しんでいる企業だ。
経営者の決意:数字を追うより「人が夢中になる」会社へ
かつてのオアシスは、数字を追い続ける典型的な成果主義の会社だった。毎日のように詰め会議が行われ、社内の空気は張り詰め、社員の表情から笑顔が消えていった。退職者も相次ぎ、組織は疲弊していったという。
そうした状況の中で、社長はふと気づく。
社員を夢中にさせることができれば、モチベーション管理なんていらない。
この発想の転換が、オアシスライフスタイルグループの経営スタイルを大きく変えていくきっかけとなった。
組織改革:任せて、信じて、楽しむ
社長が次に行ったのは、「細かい指示の禁止」だった。社員が自分の判断で動けるよう、売上目標を撤廃し、重要ポジションは上からの任命ではなく、選挙や公募制に切り替えた。
そして掲げたモットーが、次の一言である。
毎日が文化祭
自由な発想と雑談の中から事業アイデアを生み出し、社内の“楽しさ”そのものが企業の成長エンジンになっていく。「任せるが、情報共有は徹底する」というバランスが、組織に驚くほどのスピードと一体感をもたらしている。
強み:自由な社風と、実行力の速さ
オアシスの最大の強みは、何よりも自由な社風にある。社内で出たアイデアは、思いついた瞬間から具体化が始まる。独自開発した、伸縮性・速乾性・撥水性を兼ね備えた高機能素材をベースに、「スーツに見える作業着」という逆転の発想が生まれた。
今では飲食の現場などでも利用されており、支持を集めている。
さらに、スポーツメーカーのアシックスと共同開発し、「かかとを踏めるビジネスシューズ」も開発中だ。遊び心と機能性を両立させる逆転の発想こそ、この会社の真骨頂といえる。
中小企業診断士としての提案:アパレルを次の主軸へ
ここからは、私が中小企業診断士の立場から見た時の提案である。現状は水道の給水管事業が主力と推察されるが、将来的にはアパレル事業をもう一つの主軸に育てていく余地が大きいと考えている。
- 広げる(用途を絞る):法人向けユニフォーム市場の開拓 スーツに見える作業着を、業界別ユニフォームとして法人向けに展開する。特に、介護・建設・設備・物流など、「動きながら信頼感も求められる」業種とは相性が良い。 「動けるスーツ」「現場仕様のビジネスウェア」として導入企業を増やすことで、安定した収益の柱として育てることができるだろう。
- 広げる(拡大する):「楽しんで働ける組織」をつくる組織改革コンサル事業を立ち上げることも考えられる。スーツのサブスクサービス、生地そのもののブランド素材としてのOEM供給、廃棄作業服の素材再利用など、サステナブルな観点での展開余地も大きい。
- 自社商品:スマートウェア・安全健康モニタリングウェア 温度・心拍・姿勢などを検知するスマートウェア、安全健康モニタリングウェアの開発も有望な方向性だと考える。現場で働く人の安全と健康を守るウェアとして、アパレルとテクノロジーの融合を図ることができる。
- IT化:社内ナレッジの共有と活用 雑談やアイデアから事業が生まれる同社だからこそ、その知見をナレッジとして蓄積・検索できる仕組みづくりが有効だ。情報共有のルールとツールを整え、「雑談から事業が生まれるプロセス」を再現可能な形にすることを提案したい。
- 伝える・コラボする:ファンと共につくるブランドへ SNSで自社商品の利用シーンを発信し、利用者からの改善要望やアイデアを募ることで、ファンとの共創型ブランドに育てていくことができる。カフェや工務店とのコラボ商品を展開し、「働くを楽しくする」世界観を広げていくことも一つの方向性だ。
まとめ:「文化祭経営」が生む新しい働き方
オアシスライフスタイルグループの歩みは、「数字よりも、人が夢中になれる環境づくり」を優先した経営の物語でもある。自由で、遊び心があって、しかし真剣。まるで文化祭のように、全員が一つのテーマに没頭している。
この「文化祭経営」は、これからの時代の企業文化のヒントになり得る。働くことを楽しむ力こそが、企業を強くする。そう感じさせてくれるのが、この会社だ。


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