「人を大事にしたら、肉の価値が上がった」──上原ミートが価格競争から抜け出せた理由

勝手に企業診断

食肉卸の世界は、典型的な「薄利多売」の業界です。価格は相場に左右され、差別化は難しい。人は定着しにくく、現場は疲弊しやすい。そんな構造の中で、“人を起点に事業を組み替えた”会社があります。沖縄の食肉卸・加工・販売会社、上原ミートです。

父との衝突から始まった改革

上原ミートが直面していた最大の課題は、高い離職率でした。人が辞め、現場が回らず、品質も安定しない。負の循環を断ち切るため、現社長は大胆な一手を打ちます。完全週休2日制の導入です。

しかし、この決断はすんなりとは進みません。会長であり父でもある先代から強い反対を受けます。「この業界で、そんなことをして回るわけがない」。それでも社長は引きませんでした。労働環境を整えなければ品質も生産性も上がらない。むしろ人を大事にすることこそが競争力になると信じたからです。

人が定着すると、現場が変わる

制度改革は、単なる休日増では終わりませんでした。給与体系の見直し、若手抜擢と育成、小集団活動による改善、意見を言いやすい仕組みづくり。こうした積み重ねが現場の空気を変えました。

  • 人が辞めなくなった
  • 人が育つようになった
  • 品質が安定し始めた

そして重要なのは、品質が安定したことで、ようやく「次の一手」を打てる状態になったことです。人材の定着は“美談”ではなく、事業の土台そのものだったわけです。

卸の価格競争から、川下へ

次に上原ミートが挑んだのは、卸一本のビジネスモデルからの脱却でした。選んだのは、自社ブランドによる製品販売の強化です。ウィンナーやハンバーグなど、現在は34品目にも及ぶブランド商品を展開しています。

ブランド名は「沖縄牧志公設市場」。地元産の肉を使い、コンセプトとパッケージを統一することで、「どこで、誰が、どんな想いで作っている肉なのか」が一目で伝わる設計になっています。

上原ミートの“本当の強み”

同社の強みは加工技術だけではありません。アグリー豚の取り扱い量トップクラス、他社にはない鮮度、生産者との強固な信頼関係。これらは、現場が安定して初めて真価を発揮します。

人材定着 → 品質安定 → ブランド構築 → 価格競争からの脱却。この流れを作れたことこそが、上原ミート最大の成功要因と言えます。

診断士としてのアドバイス:次の成長に向けた現実的な打ち手

1. BtoBを“収益の柱”として本格強化する

アグリー豚の特性は、病院・給食・介護事業者と相性が良い可能性があります。脂が重すぎない、品質が安定、下処理済み商品で厨房負荷を下げられるなど、「現場の困りごと」を減らす提案ができます。単なる原料卸ではなく、オペレーションを楽にする食材提案まで踏み込むことで、価格ではなく価値で選ばれる取引先を増やせます。

2. 用途別・課題別のブランド整理で“刺さり”を強くする

次の段階として、用途別・課題別の切り口でブランドを整理すると、伝わり方が一段上がります焼肉用・とんかつ用・しゃぶしゃぶ用など「使い方目線」で分けるか、幼児向け・シニア向け・働き盛り向け、あるいは高タンパク・ヘルシー志向・ダイエット向けなど「生活者の課題目線」で分ける。商品名やパッケージだけでなく、販促メッセージとレシピ提案までセットにすると、売り場や商談で刺さりやすくなります。

3. 飲食店向けは「卸」から「メニュー設計パートナー」へ

飲食店に対しては、製品を納めるだけで終わらせない設計が有効です。たとえば歩留まりを踏まえた部位提案、調理オペレーションを短縮する下処理提案、看板メニューを作る味設計の相談窓口。ここまで踏み込めると、上原ミートは「仕入先」ではなく相談相手になり、取引が継続しやすくなります。

4. IT化で“儲かる構造”を固める

利益をさらに伸ばすには、現場の感覚だけに頼らない仕組み化が効きます。歩留まり率、ロス率、工程別の作業時間(特に段取り時間)を見える化し、小集団活動と連動させて改善サイクルを回す。これにより、人を増やさずに利益を積み上げる構造が作れます。特に加工・包装の工程は“見える化”で改善余地が出やすい領域です。

5. 海外は「冷凍加工 × OEM」から小さく始める

海外展開は段階設計が重要です。生肉輸出は規制対応の負荷が高く、中小規模ではリスクが大きい。まずは冷凍加工品、商社経由、海外事業者とのOEMなど、規制対応を外部の力で補える形から小さく始めるのが現実的です。最初から広げすぎず、国・商品・チャネルを絞って勝ち筋を作ることをおすすめします。

人を大事にした会社は、強い

上原ミートの事例が示すのは、「人を大事にすることは理想論ではない」という事実です。人が定着したから品質が安定し、品質が安定したからブランドが育ち、ブランドが育ったから価格競争から抜け出せた。これは食肉業界に限らず、多くの中小企業にとって再現性のあるヒントになります。

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