建物の中で一番「存在を忘れられているもの」は何でしょうか。
それは、壁の中や床下にひっそりと走る配管です。
普段は意識されないのに、ひとたびトラブルが起きれば、スーパーも、病院も、工場も一気に止まってしまう。そんな厄介で、でも本当はとても重要な存在が配管です。
今回は、その配管に真正面から向き合い、「見えない場所」を武器に変えた建築設備会社、KOEI(1946年創業・139人)のストーリーを紹介します。
下請けからの脱却は、たった一言の「困りごと」から始まった
きっかけは、ある顧客の何気ない一言でした。
「配管がどこを通っているのか、正直わからなくて不安なんです」
多くの建物では、過去の図面が残っていなかったり、増改築を繰り返して配管経路が不明になっていたりします。トラブルが起きたときは、壁や床を壊して調査するしかない。お金も時間もかかり、現場もストレスだらけです。
この「見えない不安」をどうにかしたい。ここに、KOEIの社長はチャンスを見ました。
そこで社長が思いついたのが、「配管ロボット」です。配管の中を走りながら、カメラで内部を確認できるロボットがあれば、壊さずに調査ができる。顧客の不安も、無駄な工事も減らせる。
しかし、このアイデアは社内で大きな反発を招きます。先代の社長からは、
「夢物語を語るな」
と、一蹴される始末。それでも現社長はあきらめませんでした。
「絶対に負けない」という信念で大学と共同開発に取り組み、時間をかけて、ついに配管内部を走行できる配管ロボットを完成させます。
見えない配管を「可視化」した瞬間、ビジネスモデルが変わった
配管ロボットの登場で、KOEIの立ち位置は大きく変わりました。
- 配管を壊さずに内部の状態を確認できる
- サビ、破損、勾配不良などを写真・動画・データで記録できる
- 劣化状況を「見える化」した上で、更新や補修の提案ができる
これは単なる技術開発ではなく、「下請けからの脱却」の一歩でした。
それまでのKOEIは、元請けから仕事を受ける立場が中心でした。しかし配管ロボットを手に入れたことで、顧客の困りごとを直接つかみ、「提案する会社」に変わっていきます。
さらに、この配管ロボット事業を子会社化し、同業他社へもサービスとして提供するモデルを構築します。
・配管ロボットによる調査サービス(定額・サブスク型)を入り口にする
・調査結果にもとづいて、本体の配管工事やリニューアル工事につなげる
こうして、調査と工事を組み合わせた「フロントエンド商品 → 本丸工事」のビジネスモデルが生まれました。
KOEIの強み:配管工事の技術 × 配管ロボット × 現場データ
KOEIの強みは、単に配管ロボットを持っていることではありません。
- スーパーや病院など、幅広い業種の配管工事の実績
- 配管を分解せずに調査できるロボット技術
- 現場で取得した配管データを工事提案に生かすノウハウ
「配管を施工できる会社」は多くても、「配管の中身をデータで語れる会社」はそう多くありません。ここが、KOEIがニッチで独自のポジションを築けているポイントです。
中小企業診断士としての視点:ここからさらに伸ばすための打ち手
ここからは、中小企業診断士としての視点で、KOEIの強みをさらに伸ばすためのポイントを整理します。
1.伝える:配管は「見えない資産」であることをストーリー化する
配管ロボットの価値は、「壊さずに見られます」という技術説明だけではなかなか伝わりません。大事なのは、「放置した結果、どれくらい損をするのか」をセットで語ることです。
- 病院で配管が詰まり手術室が使えなくなったケース
- スーパーで水漏れが発生し、食品廃棄と休業が発生したケース
- 工場で勾配不良からライン停止につながったケース
こうした「現場のリアルな困りごと」と、その手前で防げるというストーリーを、SNSやコーポレートサイト、セミナーなどで発信していくと、配管調査に予算をさく意味が見えてきます。
また、社長が先代の反対を押し切って開発したストーリー自体が、非常に強いブランド資産になります。技術だけでなく、「なぜこの事業をやっているのか」を言語化すると、採用・営業ともにプラスに働きます。
2.広げる:配管ロボット × データから派生する新サービス
KOEIには、「配管ロボット」と「現場データ」という強力な資産があります。これを軸に、周辺のビジネスをいくつも広げることができます。
- 配管診断結果をもとにした配管図(CAD・3D)の作成サービス
- 災害後の配管健全性チェックパッケージ(自治体・インフラ企業向け)
- 設備更新サイクル管理サービス(何年ごとに、どの配管を見直すべきかの提案)
- 配管診断レポートのサブスク提供(年1回診断+レポート+改善提案)
「調査して終わり」ではなく、「調査結果を見ながら一緒に設備計画を立てるパートナー」に進化できると、単発受注から長期的な取引に変わっていきます。
3.絞る:得意な領域でナンバーワンを取りにいく
配管と言っても、用途やリスクレベルはさまざまです。会社の規模を考えると、「全部やる」のではなく、勝ち筋のある領域に集中したほうがブランドが立ちます。
- 医療ガス配管(命に関わる領域での安全性の担保)
- 高圧ガス設備(食品工場、化学工場など)
- マンション・ビルの給排水配管(漏水リスクが大きい領域)
例えば、「マンション・ビルの給排水事故ゼロを目指す配管診断会社」といった形でコンセプトを絞ると、営業メッセージもわかりやすくなり、紹介も生まれやすくなります。
4.広げる(住宅・自治体向け):年額点検プランでストック型ビジネスに
住宅会社や管理会社、自治体に対しては、年額の配管点検プランとして提案することもできます。
- 年1回の配管ロボットによる診断
- 診断結果レポートとリスク度の見える化
- 必要に応じた補修・交換の提案
いわば、「配管の人間ドック」です。事故が起きた後に対応するのではなく、「起こる前に対策する」という考え方を浸透させられれば、ストック型で安定的な売上を作ることができます。
5.海外展開:ロボット単体の供給とクラウド連携
海外で配管工事まで一気通貫で行うのは難易度が高いですが、ロボット単体の供給や、クラウドと連携した診断レポートサービスであれば可能性があります。
- ロボット本体をOEM供給し、現地企業に配管調査を担ってもらう
- 調査データをクラウドにアップロードしてもらい、日本側で解析・レポート作成を行う
こうしたモデルであれば、国内で磨いてきたノウハウを、海外市場にスケールさせる道も開けてきます。
おわりに:見えないものに価値を見つけた会社
KOEIの取り組みは、「見えないところにこそ価値が眠っている」という良い例だと思います。
配管は、普段は誰も気にしません。しかし、困ったときには「誰よりも頼りにされる存在」になれる領域でもあります。
中小企業にとって大事なのは、
- お客様の困りごとのど真ん中にある領域を見つけること
- そこで役立つ技術やサービスを磨き続けること
- そして、それをきちんと言葉とデータで伝えていくこと
配管ロボットを武器に、下請け構造から抜け出そうとしているKOEIは、その好例と言えるでしょう。


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