「ウチは製造業だから、見せられる場所なんてないよ」
中小企業の現場でこんな言葉をよく聞きます。
しかし、その常識を真っ向から覆した会社があります。
それが、刃物メーカー「諏訪田製作所」。
創業1926年、社員60人。
一見、どこにでもある町工場です。
ところがこの会社、年間2,000人以上が工場見学に訪れる“ファンが集まる工場”へと進化しました。
しかも、その過程には「借金5億円」「どんぶり勘定」「社員の反発」といったドラマが存在します。
なぜここまで変われたのか?
その裏には、「人を大切にする経営」と「伝統に甘えない覚悟」がありました。
借金5億円からのスタート。救ったのは“一つの気づき”
社長が就任した当初、会社は借金5億円。経営管理はどんぶり勘定。
普通なら「倒産寸前」の状況です。
そんな時、社長はドイツ製の爪切りを手にし、衝撃を受けます。
美しい。握りやすい。機能とデザインが両立している。
こんな爪切りが作れたら、ファンがつくはずだ。
この瞬間、諏訪田製作所の進むべき道が見えます。
“安さ”ではなく、“価値”で勝負する。
強み:刃の曲線に魂を込める職人技
諏訪田の爪切りはプロのネイリストからも支持されています。
理由はシンプルで、「圧倒的な切れ味」と「手に吸い付くフィット感」。
人の爪は曲線。
だから刃も完璧なカーブにする必要がある。
機械では再現できない“曲線合わせ”を、職人が一本ずつ手作業で行う。
この熟練技こそが、世界が認める品質を支えています。
「工場を見せよう」と言ったら、社員が猛反発
社長はファンづくりのために「工場見学をしよう」と提案します。
しかし、従業員はこう言い放ちます。
「工場を“見せ物”にするんですか?」
普通なら諦めます。
でも社長は違いました。
「3K(きつい・汚い・危険)を恥ずかしいと感じるのは、
自分たちの職場に“誇り”が持てていない証拠だ」
だからこそ、社長は職場環境の改革に全力投資。
- 建物も制服も黒で統一(ブランド化)
- 徹底的な整理整頓と清掃
- 見学ルートを整備
結果、“魅せる工場”が誕生し、年間2,000人が訪れる人気スポットに!
さらに「ここで働きたい」という若者が増え、採用も好転。
“伝える”とは、見せることではなく、見せられるレベルに変えた結果である。
諏訪田製作所は、それを実践した会社です。
社員への本気の投資が「意識改革」につながる
諏訪田製作所の凄さは、技術だけではありません。
「人を大切にする経営」を徹底していることです。
- 社員食堂の設置
- 保育園を併設
ここまでやる町工場、他にあるでしょうか?
「会社は社員の生活まで支えるもの」
この考え方が浸透しているからこそ、社員は誇りを持ち、自ら改善に動く。
“人を大切にする経営”は、甘やかすことではなく「信頼を生み出す仕組み」なのだと感じます。
商品:プロに選ばれる「一生モノの爪切り」
諏訪田の爪切りはネイルサロンや美容のプロが愛用しています。
- 爪が割れない切れ味
- 手にフィットする形状
- 長く使える耐久性
- 持ちたくなるデザイン
まさに“道具”ではなく“プロダクト”。
「使って気持ちいい」までこだわる製造業は多くありません。
診断士として感じた「諏訪田製作所は、まだ伸びる」
諏訪田製作所はすでに優秀な会社です。
しかし私は、ここから“第二の成長曲線”を描けると感じています。
① 「刃物メーカー」から「プレミアムケアブランド」へ
爪切りだけではなく、「精密×安心×美しさ」の会社として再定義できます。
- ペット用爪切り
- 高齢者・子供向け安全爪切り
- 眉バサミ・鼻毛カッター・角質ケアなど美容ライン
- キッチンばさみ
- 精密工具(電子部品のリード線カットなど)
「切る」ではなく「ケアする」会社へ。
市場は一気に10倍になります。
② 「ファン=開発パートナー」にする
既にファンがいるなら、巻き込んだ方がいい。
- SNSコミュニティ
- アンバサダー制度
- テストユーザー参加
- 「あなたの声から生まれました」と発表
これにより、発売前から予約が入る・口コミが自然発生するという理想的な構造が作れます。
③ 工場見学を「体験型ビジネス」へ進化
年間2,000人が来る工場は「観光資源」です。
- 削り体験ツアー(有料)
- ネイリスト・美容学生向け研修
- 海外富裕層向けVIPツアー
- 工場を“ブランド空間”として演出
モノではなく“世界観”を売る。
④ DXは「効率化」のためではなく「技術継承」のため
諏訪田製作所にとってのDXは、職人技を未来に残す仕組みです。
一見IT化が難しい作業と思われがちですが、以下のように少しずつ取り組むことが可能です
①タブレットで工程記録
②QRコードで作業履歴
③職人の“感覚”を言語化・動画化
④在庫・納期アラートで自動化
⑤IoTで設備稼働の可視化
「伝統×データ」が揃えば、世界最強になれる。
中小企業への学び
- 技術だけでは勝てない
- 人を大切にする姿勢がブランドを生む
- 「伝える」には覚悟が必要
- 固定観念を壊せば新市場が開ける
中小企業でも、“やり方次第で世界に通用する”ことを証明した会社です。
最後に(私の想い)
私は中小企業診断士として、
「技術・人・文化を守りながら成長する会社」を支援したいと考えています。
諏訪田製作所のような会社が増えれば、日本の製造業はもっと誇れる産業になる。
そして私は、そんな会社の「伴走者」でありたいと思います。


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